介護業界での人手不足問題。解決は片づけにあり?
今、多くの介護施設で働き手不足が深刻な問題となっています。人手が足らないため、スタッフ一人ひとりにかかる負担が大きくなり、そのせいで辞めていく人が後を絶ちません。それが更なる人手不足を招いていくという負のスパイラルは、ひどく荒れた職場環境を作っていきます。当然ですが、そんな状態では施設内を片づける余裕などないからです。
確かに片づけは、日々の業務の中で最優先にするべきものではないかもしれません。利用者のケアが本来の仕事であり、それに対しお金をいただいているのです。片づけは余裕のある時にやればいいもの。スタッフが足りていない現状でそんな余力があるはずもなく、結果、必要最低限な掃除だけで終わらせてしまうのです。
ただ、そうなってしまうのは、片づけを「職場をキレイにするための作業」だと捉えているからです。棚の上に積みあがっていたモノを少しばかり減らして見栄えを良くしたところで、忙しさに変わりはありません。だから片づけをする気が起きず、いつまでも後回しにしてしまうのです。
では、もし片づけが「仕事を効率的にするための作業」だったとしたらどうでしょう。片づけることによって業務量が減るとしたら。忙しさが軽減されるとしたら。もしかしたら、やる気が起きるかもしれません。いえ、それ以前に忙しさから抜け出すために、そして人手不足を解消するために、片づけをやるべきだと気づくでしょう。
結論から言いますと、片づけることで忙しさを解消することはできます。もちろん、施設によって効果の程度に差は出てきますが、今までそれを全くしてこなかった施設であれば、問題点はいくつも見つかるはずです。そこを片づけによって改善できれば、確実に作業効率を上げることができるでしょう。
それでは、問題点はどのように見つけ、どのように改善していけばいいのでしょうか。
いちばんは、スタッフの動きのムダを見つけ、それをひとつひとつ解決していくことです。ここでは、デイサービス施設の実際の片づけ作業を例に、改善点について考えてみましょう。
介護施設環境改善 スタッフの動線①
この施設では、入り口から入ってすぐの場所に利用者のテーブルがあり(オレンジ色部分)、その奥にスタッフの詰め所(水色部分)や台所(ピンク色部分)などのバックヤードがあります。スタッフは、日々利用者のフロアとバックヤードを行ったり来たりしながら業務をこなします。
本来であればまっすぐ進むべきところ、フロアの真ん中に大きなテーブルが置かれているために、左右どちらかに迂回しなければ奥に進めない状態となっていました。一見すると、大したロスには見えませんが、毎日何人ものスタッフがここを行き来することを考えると、そのことで大きなムダが発生していると言えるでしょう。
このテーブルは、4人掛けのテーブル。それを2つ合わせて、あえて1つの大きなテーブルとして使用していました。そこで、テーブルを離して配置し、ストレートに進める道を確保します。
これはきわめてシンプルな改善ですが、それによってできたまっすぐな動線は、迂回することで発生していた歩数のムダ、時間のムダを大きく省く結果となっています。
介護施設環境改善 棚の配置
次の問題点は、棚の配置です。この施設では、利用者のいるフロアのいたるところに棚が点在していました。
こうなると、スタッフは方々の棚から使うモノを集める必要が出てくるばかりか、どこにあるのかがはっきりせず探し回る可能性も出てきます。また、棚の付近に利用者が座っていた場合、モノが取りづらかったり、一旦移動してもらう必要が出てきたり。作業効率は相当悪くなります。
そこで、棚を1か所に集約して、独立した収納エリアを作ります。
こうしておけば、必要なモノは全て同じ場所で手に入れることができます。もちろん、利用者の間をかいくぐってモノを取り出す必要もなくなります。棚が点在していた時と比べ、動線は飛躍的に短くなりました。
介護施設環境改善 スタッフの視界
また介護施設では安全上、利用者のいる場所には必ず見守りを常駐させる必要があります。とはいえ、ただでさえ人手不足の職場。ただジッと見守るスタッフを配置する余裕などありません。事務仕事や雑務をこなしながら、同時に見守りを兼任してもらいます。
この施設では、スタッフの詰め所(水色部分)の右側に壁があるため視界が遮られ、ベッド数台が死角となっています(グレー部分が見渡せる範囲)。そこをカバーするために、事務仕事をするスタッフとは別に見守りを立てる必要がありました。
そこで、フロア全体が見渡せる位置に詰め所を移動させます。これにより、詰所にいるスタッフが、事務仕事をしながら同時に見守りもできるようになりました。
複数の仕事を同時にこなせるようになるということは、労働力アップを意味します。つまり、環境を整えることで、労働力を増やすことができるということ。ですから、忙しい職場こそ片づけから始めるべきなのです。
いつ増えるとも分からない働き手をただひたすら待つのではなく、できるだけ負荷のかからない職場環境に改善するというのも、人手不足に備える一つの手段といえるでしょう。