忙しいとついつい後回しにしてしまいがちな職場の片づけですが、最近はその重要性が見直され、経営管理の一環として職場環境改善に力を入れる企業が増えてきました。
その取り組みの基盤となるのが、「5S」。整理/整頓/清掃/清潔/しつけの頭文字を取って「5S」と名付けた活動は、空いた時間に行う簡単な片づけや掃除ではなく、成果を生み出すための活動と位置づけられています。「5S」に取り組むことで、しっかりと確立された手順とノウハウに従って環境改善を漏れなく進められるとされており、それをスローガンに掲げ職場改善に取り組む企業も少なくありません。
そのように広く認知されている「5S」ですが、いくつか気になる点があります。
それらについて、ひとつずつ掘り下げて考えてみましょう。
問題点1【整理の定義が不用品の処分に限定されている】
まず、5S活動での整理の定義とは何でしょう。
整理とは、不要なモノを捨てること。
整理とは、必要なものと不要なものを分け、不要なものを捨てること。
整理とは、いらないものを捨てること。
サイトにより多少言葉は違いますが、どれを見ても、5Sにおける整理とは要らないモノを捨てることだとあります。
ですが、5S活動で処分するべきと言われている不用品は、本当に全部が取っておいても役に立つことがない、捨てるしかないモノばかりなのでしょうか。
例えば、その時使わないモノの中にも、いつか使うチャンスの訪れることがあります。また、工夫することでそのうち使える方法が見つかることもあります。さらに、現物が手元にあればひらめいたアイデアも、それを手放してしまったことで、アイデアが生み出されることなく終わってしまうこともあるのです。
また、処分だけで5Sを進めた場合、自分の身銭を切って買ったモノでないだけに、躊躇も工夫も知恵を働かすこともなく、どんどんと捨てられてしまう恐れがあります。
5S活動では、不用品を取っておくことをコストと捉え処分を勧めます。ところが実際は、その不用品自体に既にコストを支払っているのです。それを捨てるということは、既に発生したコストを、活かすことなくそのまま捨てるということになります。
もちろん、全く活かすことが考えられないようなモノは、迷うことなく処分すべきでしょう。また、それを取っておくことで必要なスペースを圧迫している、取っておくのに倉庫のレンタル料が発生しているなどであれば、やはり処分を考えるべきです。しかしながら、もし何かに使えるかもと思え、そして、それを取っておくことにスペース上の問題がないのであれば、不用品だからといって、必ずしも処分することだけが整理の方法とは限りません。
不用品が取っておかれることの本当の問題点は、今現在必要なモノと必要のないモノが混在している状態です。それらを一緒くたに収めていることで、仕事しづらい環境が出来上がってしまうのです。ですからそこをきっちりと分け、不用品は別保管することで大きく改善ができます。処分だけでなく活かすことも視野に入れる。それが、コストを最小限に抑えた整理の作業になります。
問題点2【整頓の定義の捉え方に現状と差ができてしまっている】
今度は、5S活動での整頓の定義を見てみましょう。
整頓とは、使いやすく並べて表示をすること
整頓とは、必要なものがすぐに取り出せるように、置き場所、置き方を決め、表示を確実に行うこと。
整頓とは、決められた物を決められた場所に置き、いつでも取り出せる状態にしておくこと。
つまり、5S活動での整頓は、「使いやすく分かりやすくする」という作業になります。
ただ実際のイメージとして、整頓と聞くと「使ったモノは元に戻す」「バラバラに置かれたモノは一か所にまとめる」という、どちらかというと見た目を整える作業を思い浮かべるのではないでしょうか。例えば、職場や学校に貼られている整理整頓の張り紙。これを見て連想するのは、後片づけであって土台から環境を改善することではないはず。なぜなら、これまで整理整頓を「後片づけ」というスタンスで教わっているからです。
職場に限らず家庭でも、いつも片づけているのに一向にその片づけが終わらないという人がいます。その原因は、整頓から始めてしまっていること。つまり最初から、見た目を整える作業に取り掛かってしまうのです。ところが実際は、それでは片づきません。なぜなら、土台の部分ができていないからです。実は、まず収納という土台部分をしっかりと構築する必要があります。そして、出来上がった土台を常に快適な状態に維持するために、整頓をする必要があるのです。それが、整理整頓と貼り紙された4字熟語の整頓の意味なのです。つまり、整頓が活きてくるのは、まず土台作りをしてからであるということ。
実際、整頓を辞書で調べてみると、
「きちんとかたづけること。また、きちんとかたづくこと。整うこと」「物事をととのった状態にすること」とあり、「片づける」「整える」という意味であることが分かります。
もちろん、それでは職場環境は改善されません。モノの配置を根本から見直し、職場環境の土台部分をしっかり作り上げることが必要です。にもかかわらず、整頓という言葉からはそこまでの作業は連想できない。土台作りを整頓という言葉でひとくくりにしてしまうことで、作業の認識に誤差が生じているのです。
また、たとえば整頓の表す意味を、5S活動においては土台作りまで含んでいるとしましょう。すると今度は、その言葉のカバーする範囲が広すぎるという問題が発生します。モノの配置を根本から見直して土台作りをし、その状態を保つために絶えず片づけ整えるという、大変広範囲な作業になってしまいます。
そうなると今度は、職場に貼られた「整理整頓」の張り紙も、たいそう大掛かりな作業を毎日心がけよといっていることになり、そこに矛盾が生じてしまいます。
このように、土台作りとその状態を維持するために片づけるのとは別の作業であるということ。また、整理整頓と唱える以上、整頓という言葉は、土台作りによる職場環境改善というより、後片づけや片づいた状態の現状維持を日々心がける作業と位置づけるのが一般的と言えるでしょう。
問題点3【清掃/清潔の内容が重複している】
清掃と清潔。行為と結果、または、作業とその目的のような二つの言葉が、5Sの3番目と4番目にあがっています。
実際に5S活動での定義は以下の通りです。
清掃とは、きれいに掃除をしながら、あわせて点検すること
清潔とは、きれいな状態を維持すること
清掃とは、掃除をしてゴミ、汚れのないきれいな状態にすると同時に細部まで点検すること
清潔とは、整理・整頓・清掃を徹底して実行し、汚れのないきれいな状態を維持すること
清掃とは、身の回りのものや職場をきれいに掃除をして、いつでも使えるようにすること
清潔は、整理・整頓・清掃を維持し、誰が見てもきれいでわかりやすい状態に保ち、きれいな状態を保とうという気持ちにさせること
2つの言葉の意味合いが、かなり重複しているように見えますが、しいて言えば、清掃はきれいにする作業であるのに対し、清潔はそれを維持する習慣と捉えられているようです。
ただ、それを2項目に分けることに、あまり意義が感じられません。清潔に保つ以外に清掃する理由はなく、また、清掃すれば当然その状態は維持できるからです。また、万が一それを別の工程と捉えた場合、かかる手間と時間が倍になり、非効率な結果を生み出すと考えられます。
これは、最初3Sとしていたものに、あとから清潔と躾を足し5Sにしたという経緯による矛盾かも知れません。
問題点4【しつけからは自主性が生まれない】
最後はしつけです。
5S活動におけるしつけの定義をみてみましょう。
躾とは、職場のルールや規律を守り、習慣づけること。
躾とは、きれいに使うように習慣づけること
躾とは、守ることを決め、決めたことを守る、習慣・風土を作ることです。3Sが習慣化し、企業風土となっている状態です。
どうやら、ルールを決めて習慣づけることを躾と言っているようです。
確かに、ルールは大切です。場所や数、管理の仕方や補充方法など、片づいた状態を維持するためにルールを作り、それをシステム化し定着させ徹底させることは必要です。
ただ、この躾という言葉自体には、決められたルールを守るように訓練するという意味があり、残念ながらその言葉から感じ取れるのは、ルーティーンの遂行だけ。さらに効率的な方法を探るとか、より機能的な環境を考えるといった、積極性や自主性や発展性が感じられないのです。
働く人のやりがいや誇りを引き出すために、躾という言葉が相応しいのかどうか、もう一度考える必要があるでしょう。
従来の「5S」の先を行く「発展型5S」
それでは、どのように職場改善をすすめていけばいいのでしょうか。
筆者の考える「5S」とはこうです。
1.整理(分ける)
今必要なモノと保管すべきモノを分け、さらに所有目的に沿って細分化する。
2.収納(作る)
モノに定位置を割当て、使いやすく戻しやすい収納を作り、モノを収める。
3.しくみ(決める)
作られた収納を崩さないためのルールを決め、作業が効率的に進むシステムを作る。
4.整頓(保つ)
日々片づけを遂行し、きれいな状態を保つ。
5.進化(より良くする)
環境改善に対する意識を高め、さらなる効率性、利便性、機能性を追求し実現させる。
整理では、不用品に対し全ベクトルを処分に向けず、「活かす」可能性も視野に入れ、保管管理に力を入れます。
また、土台作りを片づけと別項目とし、収納という作業において徹底的に職場環境の土台作りをしていきます。
しくみを確立することで、無駄なく効率的に作業が進むようにシステム化を図り徹底させます。
整頓の持っている本来の意味に従い、毎日片づけてきれいな状態をキープします。
そして、日々問題はないかアンテナを張り、常により良くする方法を考える習慣をつけ、職場を進化させていきます。
躾で終わってしまう従来の5Sにはその先がありませんが、仕事は発展していかなければいけません。たとえ仕事内容が未来永劫変わらない職場であったとしても、いちど作った職場環境が絶対ではなく、改善の余地はいくらでも生まれてくるはずです。
また、ひとりひとりに訓練でルールを守らせるより、ひとりひとりにその先の改善を考えてもらうほうが、仕事の意欲につながるだけでなく、結果的にルールを守らせることにつながります。なぜなら、絶えず職場環境の進化を考えられる人にとっては、職場をきれいに保つことなど当たり前に思えるからです。
もし、5S活動がうまく進まないのであれば、ぜひ最後に進化を加えた新5Sにて、もう一度職場環境を見直してみることをお勧めします。
今必要なモノと保管すべきモノを分け、さらに所有目的に沿って細分化する。
モノに定位置を割当て、使いやすく維持しやすい収納を作りモノを収める。
環境維持のためのルールを決め、作業が無駄なく効率的に進むためのシステムを作る。
常に整えておく必要性を認識し、きれいな状態を保つ。
環境改善に対する意識を高め、さらなる効率性、利便性、機能性を追求し実現させる。
整理では、不用品に対するベクトルを処分だけに向けず、「活かす」可能性も視野に入れ、保管管理に力を入れます。
また、土台作り作業を片づけ作業と別項目とし、収納という作業において徹底的に職場環境の土台作りをしていきます。
そして、しくみを確立することで、無駄なく効率的に作業が進むようにシステム化を図り徹底させます。
さらに、整頓の持っている本来の意味に従い、毎日片づけてきれいな状態をキープします。
最後に、日々問題はないかアンテナを張り、常により良くする方法を考える習慣をつけ、職場を進化させていきます。